ドローンではなくてラジコン?(ドローンとラジコンの違いについて)



2015年11月7日(土)に千葉県で開催されたドローンレースイベント、ドローンインパクトチャレンジ( http://dichallenge.org/ )の様子がNHK等で大々的に報道され話題となりました。日本で大規模に開催されたFPVドローンレースということで注目を浴びました。

ドローンの操作競う 国内初の本格レース  (2015/11/7, NHKニュース)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151107/k10010297751000.html

Screen Shot 2015-11-09 at 10.24.13 AM

この報道を受けたネット上の反応で、これはドローンではなくて単なるラジコンなのではないかという声がちらほら見受けられました。これは以前からドローンという用語を用いた報道が行われる度に見られた反応です。

こういった反応をされる方の多くはドローンとは自分自身で自動的に(自律的に)飛行する機能を持つものであり、人間がプロポ等で操作するものはラジコンと呼ぶべきだとの考えを持たれているように見受けられます。

我々が飛ばしているのはドローンなのでしょうかラジコンなのでしょうか?

ドローンとは元々、雄の蜜蜂を意味する英語Droneに由来しており無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)と同じ意味を持つものとして使用されています。航空輸送に関する国際機関であるICAO(International Civil Aviation Organization)国際民間航空機関はUAVを自律的に飛行する航空機と遠隔操作する航空機(ラジコン)の両方を含むものとして定義しています。

無人航空機に対してドローンという名称が使用され始めたのは1930年代英国及び米国で行われた無線操縦による無人標的航空機(ターゲットドローン)の研究開発の際だと言われています。1936年に米国海軍が無線操縦(ラジコン)による無人標的航空機の研究開発プロジェクトにおいてドローンという用語を用いたことが記録されています。当時無線操縦による無人航空機の製品を開発し製造した人物としてReginald Denny が知られています。彼は第一次世界大戦において英国陸軍のパイロットとして活躍した後、米国に移住しハリウッド俳優となりました。俳優の活動の傍ら彼の趣味でもあった無線操縦飛行機に関する会社を興し米国陸軍や海軍に対して標的用の無線操縦飛行機などを納入するようになりました。この際米国海軍に納入した無線操縦の標的機Target Drone Denny-1(TDD-1)という名称が用いられています。なお余談になりますが後に大活躍する女優のマリリンモンローはこの工場の工員として働いていたところをスカウトされたと言われています。

このように無人航空機に対してドローンという用語が用いられるようになったのは第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、主に航空機のパイロットや船の対空射撃の無人標的機に対して用いられたのが始まりであり、それらは基本的に無線による遠隔操作によるものでした。その後ドローンは遠隔操作による無人小型航空機を意味するものとして標的機の他にも偵察用途や爆撃用途などにも広がりました。その後の開発の過程においては自律的な飛行機能を持ったものも現れていますが今日に至るまで軍事の分野においては無線操縦による小型飛行機に対してドローンという用語が使用されています。つまりドローンという用語は元々ラジコンの航空機を示す用語として用いられてきました。

最近ではマルチローターのヘリコプターであるマルチコプターのドローンの名称を使った商品が多数販売され有名になったことからマルチコプター自体をドローンとして認識する人も出てきています。プロペラとモーターをたくさん搭載したマルチローターの飛行機器で人間が乗ることができるようになったものについて、「人が乗ることができるドローン」などという表現がネットメディア等で用いられることがありますが、冒頭でも書いたようにドローンは従来無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)の意味で用いられており、ドローンには固定翼のものも回転翼のものも含まれますのでマルチコプターという意味でドローンという用語を用いるのは誤用と考えられます。

一方従来のラジコン飛行機やラジコンヘリコプターと現在様々な場所で使われているドローンとの違いはどのようなものと考えられるでしょうか?先に紹介した従来の定義に基づくとすればラジコン飛行機やラジコンヘリコプターをドローンと呼んでも差し支えがなさそうです。ただ、実際にそのような形でドローンという用語が使用されることはないようです。ではラジコンとドローンはどのように使い分けられているでしょうか。まず上記の軍用のものを除くと実際にドローンという言葉が使用されている対象としてはプロペラとモーターのセットが3つ以上使用されているマルチローターヘリコプターの無人航空機に対してドローンと呼ばれることが多いようです。また固定翼機であってもFPVを搭載していたりビデオカメラを搭載しているものはドローンと呼ばれることがあるように思われます。

海外ではドローンという用語はどのように使われているでしょうか?やはり日本と同様にドローンは最近普及しているマルチコプターに対して使用されることが多いようです。また上述の通り固定翼であってもFPVや記録用ビデオその他センサー等を搭載しているものはドローンとして表現されます。また冒頭で言及しましたドローンレーシングですが海外でもドローンレーシングという競技として確立されているように思われます。米国では2015年に大規模なドローンレーシングの大会が開催されこの際の名称は “US National Drone Racing Championships” ( http://dronenationals.com/ ) とドローンの名称が用いられています。その他各国で開催されている大規模な大会においてもドローンレーシングの呼称が用いられています。ただドローンという用語自体はどちらかというとメディア向けあるいは一般向けの印象もあります。実際にこれら競技を行っている人達の間ではクワッド(コプター)と呼ばれることが多いように感じます。ただしクワッドは厳密には4つのプロペラ及びモーターを使用するものになりますので、6つのプロペラを用いたヘキサコプターなども競技には参加しますのでマルチコプターと呼ぶのが無難という形になります。しかしだからと言ってマルチコプターレーシングと言うことはあまりなさそうです。

以上をまとめますと、ドローンとは無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)を示す言葉でありこれには遠隔操作によるものと自律飛行によるものの両方が含まれます。また固定翼と回転翼の両方が含まれます。ラジコン飛行機やヘリコプター自体はドローンに内包され、特にマルチコプターのラジコン機はドローンという呼称が定着しており、特に従来のラジコン飛行機やヘリコプターと区別する意味でもこの呼称を用いることは間違いではないと言えます。

ドローンとは自律飛行を行うものであるという定義はどこに由来するものなのか不明なのですが一説では「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の中でそのような説明が行われていたとの情報もあります。もしこの定義の出所についてご存知の方がいらしゃいましたらぜひお教えいただけますと幸いです。