【ドローン規制】航空法施行規則改正パブリックコメントを提出しましょう(論点整理編)

パブリックコメント


【前提】
今回のパブリックコメントの対象は航空法施行規則ですが、私はその前提となる航空法改正の内容自体が、現在のドローンやラジコン航空機等を取り巻く現状に対して過剰な規制であり適切ではないと考えており、今回新たに施行となる改正航空法自体をさらに見直す必要があると考えています。

ここ数年新たに開発されたマルチコプターを中心とする関連技術は現在急速な開発と普及が行われている最中であり、その技術的な可能性や有用性、活用方法などは未だ未知数の状態です。商用化についてもまだまだ市場の萌芽的段階にあります。現状におけるドローン関連の最も大きな市場は軍事を除けば趣味としての飛行やレースなどホビー市場、個人あるいは法人による動画・静止画等の撮影用途であり、まずはこれら領域での普及や利活用が今後の様々な分野での本格的なドローン活用と市場の拡大に不可欠だと考えます。

今回の航空法の改正は、実際の飛行が安全なものか否かに関わらず、人又は家屋の密集している地域の上空の飛行、夜間の飛行、人や物件の近くの飛行などを原則禁止とし、それらを行う場合に事前申請と許可・承認を得なければならないとしています。そしてこれらの違反に対しては最高50万円の罰金という処罰が規定されています。

ドローンをビジネスとして運用しようとしている事業者はともかく、一般個人の利用者が休日に趣味でドローンを飛ばしたり、ドローンを使って動画を撮影するために都度数週間も前から国土交通省の事務所に申請をして承認を得るというのは大変ハードルが高く、一部熱心なマニアを除いては一般市民が気軽にドローンの飛行や利用を楽しむということは不可能になると考えられます。文面上は、日中、人または家屋の密集地域以外、人や物件の近くで飛行しないという条件を満たせば良いとされていますが、今回示されている航空法施行規則案に基づくとそのような飛行を行うこと自体のハードルが極端に高いものとなるため、12月の法施行によって一般市民による気軽なドローンの利用はほとんどできなくなるように思われます。

本来であれば航空法自体の改正自体の内容についてもより広く意見を募った上での議論が必要だと考えていますが、こちらはすでに法律として成立し施行期日も迫っていますので、まずは今回の施行規則について、その望ましくない影響の範囲をなるべく小さくするための意見を提出し、その後も法律の適正化に向けた議論につながればと考えています。

以上の前提に立った上で、今回示された「航空法施行規則改正案」と「無人航空機の飛行に関する許可・承認の申請・審査要領(案)」のそれぞれについて、論点を整理してみたいと思います。なお本件に関する参考資料等を下記の別エントリーにまとめていますのでそちらも参考にしてください。

【ドローン規制】航空法施行規則改正パブリックコメントを提出しましょう(資料編)
http://fpvdrone.jp/2015/10/avi-law-material/


 

【航空法施行規則改正における論点】

(論点1)規制対象となる無人航空機の最低重量が軽すぎる

改正航空法では規制の対象となる「無人航空機」を以下のように定義しています。

「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であつて構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により飛行させることができるもの(その重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く。)をいう。」

これに対応して今回の航空法施行規則では「航空法上の無人航空機から除くものを、重量が 200g 未満のもの」と定義しています。

この案では200gを超えるものが無人航空機として規制の対象となりますがそれ以下のものは規制の対象とはならず、夜間の飛行や人口密集地域、人や物の近くでの飛行なども制限されずまた制限に伴う申請等も不要となります。

この最低重量の設定(200g)ではかなりシンプルな形態の玩具しか対象とならず、もう少し大きく(重く)ても良いのではないかという意見が聞かれます。冒頭に書いた一般の利用者が気軽にドローンを飛ばせるようにということを考えると1000g程度のものまで利用できても良いように思われます。1000g程度であればドローンの技術開発等を考えても必要最低限の機能は装備することが可能となり、一般市民のドローンの利用、技術開発や利活用が阻害されることをある程度制限できるかと考えられます。

(論点2)規制対象となる人又は家屋の密集している地域の設定単位が大きすぎる

無人航空機の飛行を原則禁止とする人又は家屋の密集している地域の定義について、航空法施行規則では「人又は家屋の密集している地域を、国勢調査の結果による人口集中地区と定めることとする。」としています。これは国勢調査の基本単位区を基礎単位としたももであり、市街地に存在する広い庭や学校の校庭等、同一単位区内に安全に飛行できる場所があったとしても一律に飛行を制限することになってしまいます。

住んでいる地域が人又は家屋の密集している地域に該当すれば、自宅の庭や企業等の敷地など例え広くて安全な場所で飛行できる環境があるとしても一律に規制の対象となり、申請と承認が必要となり柔軟なドローンの利用を阻害する要因となります。このような状況を回避するためには人又は家屋の密集している地点を一律に地域としてまとめるのではなく、個別に地理的な範囲を細かく定義することが望ましいと考えます。

(論点3)人又は物件から保つべき距離が大きすぎる

無人航空機の飛行の禁止空域[法第 132 条関係]④無人航空機が地上又は水上の人又は物件から保つ距離[法第 132 条の2第3号関係]として30mと定められています。物件の定義にもよりますが航空法第49条の記述から物件には植物や仮設物が含まれると考えられます。

この場合無人航空機はそういった物件から30m以上離して飛行させるか、事前に承認を得ることが必要となります。承認を得ない場合にこの条件を満たしてドローンを飛行させるにはドローンの移動する各地点において直径60m以上の人や物件がない空間を確保するか、物件から相対高度30m以上を確保して飛行する必要が生じます。

マルチコプター等無人航空機にとって高度を高くとることは、地上の物件等との距離をとることになりますが、操作者と無人航空機の距離が離れることによって見失ってしまったり機体の進行方向がわからなくなる可能性や、上空の突風等に煽られる可能性、通信状態の悪化による操縦不能等のリスクが高くなる、トラブル時に遠方まで飛んで行ってしまうなど、かえって危険を増やすことにもなりかねません。特に玩具等として販売されている小型軽量な無人航空機や初心者が操縦するような場合については30mもの高い高度をとるよりも、十分視認しやすく不具合があればすぐに着地できる低い高度(人や物件に対して近い距離)で飛行させた方がよほど安全なこともあり得ます。

マルチコプターなどの無人航空機の適切な飛行高度や人や物件との距離は機体のサイズや機能、性能、風の状態、操作者の技量などによって変わるものであり30mもの高度や人、物件からの距離をとることを申請不要の条件とすることはかって危険な飛行状態を生む可能性があると考えられます。

また現在、世界各地ではドローンを用いたレースなどが盛んに開催されており今後はより本格的なプロスポーツとしての展開なども検討されています。このような流れを受けて日本でも本格的なドローンレースの開催が計画されています。こういったレースのコース上にはゲートやポール等の障害物が設置されこれらを回避しながら飛行する操縦技術が競われるのが一般的です。当然通常のレースではこれらの障害物に対して操縦者はなるべくギリギリの距離を飛行しようとします。これらレースは多くの場合主催者等によって飛行区域への立ち入り禁止等、安全管理を十分行った上で開催されますが、これらの障害物等が本改正案における「物件」に該当するとなるとこういったドローンのレースやその練習を行う場合、その都度15日前までに参加者全員の個人情報と使用する機材の詳細とともに申請し承認を受けることが必要となります。

これはあまりにも非効率ですし想定されるリスクに対して求められる手続きがあまりにも煩雑になり、今後世界的に発展が見込まれるドローンレースの分野においてその競技の実現を著しく制限することとなり国際的にも大きなハンデキャップを背負うこととなります。

また、その他にも30m以上という距離の制限は橋梁や建物の外観の点検等の業務利用や写真撮影においても、その可能性を著しく制約するものであり到底受け入れられるものではありません。申請により実現可能といっても現在提示されている15日以上という条件を考えればあまりにも業務の即応性に欠け現実的にそういった業務を行うのは不可能ともいえる状態になるかと思われます。


【「無人航空機の飛行に関する許可・承認の申請・審査要領案」における論点】

 

(論点1)申請書の提出期限(15日)が飛行開始日に対して早すぎ(長すぎ)る

飛行禁止空域における飛行の許可及び定められた飛行の方法によらない飛行の承認についての許可又は承認に関する申請書の提出が飛行開始予定日の15日前までに提出とされていますが、技術的にもまだ成熟しておらずまた各方面における利活用の方向性も定まっていない技術領域において15日前という申請の期限は早すぎ(長すぎ)技術開発や利活用の可能性を大きく阻害する要因となりかねません。せめて2日から数日程度とすべきと考えます。

(論点2)申請書に対する許可・承認に関する回答期限が示されていない

上記飛行禁止空域における飛行の許可、定められた飛行の方法によらない飛行の承認についての申請期日が定められているのに対して、その回答に関する期限が設定されていません。今後の技術開発や利活用の機会において飛行に関する許可・承認や是正のための要否の確認に時間を要することは、関連する分野の技術開発や利活用の可能性を大きく阻害する要因となります。申請に対する回答の期限について当日から1日程度を目安に設定すべきと考えます。

(論点3)緊急を要する場合の申請の基準が明確ではない

緊急を要する申請については電子メール、 ファクシミリによる申請が可能とされていますが、その条件として示されている「その他特に緊急を要する場合」についての判断基準が明確ではありません。申請者側の都合で緊急を要する場合でも電子メールやファクシミリによる申請が可能となることが望ましいと考えます。

(論点4)許可等に係る基本的な基準として示された内容に偏りがある

許可等に対する基準として示された内容が特定の製品等を想定しているように感じられ偏りがあるように思われます。4-1-1最大離陸重量25kg未満の無人航空機には玩具等の軽易なマルチコプターも含まれると考えられますが、「特別な操作 技術又は過度な注意力を要することなく、安定した離陸及び陸着ができること。」「特別な操作技術又は過度注意力を要することなく、 安定した飛行(上昇、 水平方向の飛行、ホバリング(回転翼無人航空機に限る。) 、下降 )ができること。」などが示されており一定の操縦補完機能が搭載されているような製品が想定されているように読み取れます。このような機能を持っている製品はごく一部ものしかなく、玩具等の軽易なマルチコプターや競技用のマルチコプターなどそういった機能を搭載していない機器であっても十分な操作技術を持って操縦することが安全な飛行が可能となります。また、ここで想定されるような自動操縦もしくは操縦の補完等の機能は誤動作等によって却って危険な状況を生ずることもあり、一律にそういった機能の利用を許可の前提として要求することには違和感があります。
この基準に対して「ただし、操縦者の技能等、安全確保 のため対策等とあわせて総合的に判断し、地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないと認められる場合は、この限りでない。」とされていますが、このような特定のタイプの機器を想定した記述があることでその内容について許可の判断が偏ることが懸念されます。

(論点5)密集地域上空飛行 のため基準の例示が不適切

5-2(1)において「無人航空機の落下による第三者に対する危害を防止するため、第三者の上空で無人航空機を飛行させないよう、次に掲げる基準に適合すること。
a) 機体について、物件に接触した際の危害を軽減する構造を有すること。
当該構造の例は、以下のとおり。
・プロペラガード 等」
との記載がありますが「第三者の上空で無人航空機を飛行させない」対策と「物件に接触した際の危害を軽減する」対策が混同されているように見えます。人又は家屋の密集 している地域であっても塀に囲まれた私有地等で小型の無人航空機を低い高度で飛行させるような場合など「第三者の上空で無人航空機を飛行させない」対策を十分に取ることは可能です。またそのような場合において物件に接触したとしても物件が自身の所有物であり危害を受容可能な場合ついてまで制限を要求する必要はないと考えられます。「5-2 人又は家屋の密集している地域 の上空 における飛行のための基準」となっていますが「人又は家屋の密集している地域」の設定自体は広範囲であり、実際に人や物件の上空を飛行することなく危害を及ぼす可能性のない場合についてまで「物件に接触した際の危害を軽減する構造 例プロペラガード」を一律に要求する必要はないと考えます。本項の記述全体について人に対する危害予防の観点と物件に対する損害の軽減に関する記述が混在しているように読み取れます。

(論点6)第三者の上空で無人航空機を飛行させる場合の基準に偏りがある

5-2(2)において25kg未満の無人航空機を第三者の上空で飛行させる場合の基準を示していますが、バッテリーの二重化、GPSの利用、パラシュートの搭載等、特定のタイプの製品や必ずしも一般的ではない偏った機能の利用が想定されています。25kg未満の無人航空機には小型軽量の機体も含まれますがこういった機能を装備することでさらに機体の重量が増したり不具合が発生する可能性も高くなり状況によっては逆に危険な状態を生み出すことになりかねません。軽量な機体を使用し第三者上空での滞空を極力回避するなどの工夫により安全を確保することも可能であり、発展段階にある技術について、このような特定機能の使用を規定することは現時点では時期尚早と考えられます。
特に「イ)飛行させようとする空域を限定させる機能を有すること。例としてジオフェンス機能」が基準として示されていますが、すでに第三者の上空を飛行させる前提においてこの機能を要求する根拠が不明確です。また上記でも述べているように第三者上空の飛行においてGPS等の機能の有無と飛行安全の関係性が不明確です。
5-2(3)では25kg以上の無人航空機を第三者の上空で飛行させる場合の基準が示されていますが、こちらには、バッテリーの二重化、GPSの利用、パラシュートの搭載、ジオフェンス機能などの機能要件が示されていません。より重量が大きくリスクも大きい25kg以上の無人航空機に対して要求していない機能要件をよりリスクが少なく玩具等の無人航空機も含まれる25kg未満の無人航空機に対して要求しているのは不自然でありその必然性が不明確です。今後の技術発展の余地や様々な形での対策を可能とするために25kg以上の無人航空機と同様にこういった個別の機能上の要求はあまり具体的に定義しないことが望ましいと考えます。
本(論点6)については同様の記述である5-3(2),5-3(3)にも対しても適用されます。

(論点7)不適切な用語(機体に設置されたモニター)

以下の記述について一般に機体外の様子を監視するための方法については映像による監視と解釈しましたが、この場合機体に搭載する設置する機器については「モニター」よりは「カメラ」という用語を用いることで表示に用いる「モニタ」との混同が避けられるかと思います。

「5-4 目視外 飛行の ため基準 (法第 132 条の2第2 号関係)
(1)機体 について、 次に掲げる 基準 に適合すること。
・自動操縦システムを装備し、機体に設置されたモニターにより機体外の様子を監視できること。」

(論点8)人又は物件近くでの飛行のための基準が整合していない

「5-5 地上又は水上の人又は物件との間に所定の距離を保てない飛行のための基準」
において「無人航空機の落下による第三者に対する危害を防止するため、第三者の上空
で無人航空機を飛行させないよう、次に掲げる基準に適合すること。」について「人又は物件」の場合の条件には物件のみが該当する場合があるにもかかわらず「第三者の上空」を想定している安全対策が一律に強制されるのは記述に整合性がないと考えられます。
その一方で「第三者の上空で無人航空機を飛行させないよう、」と書いているにもかかわらず「a)機体について、物件に接触した際の危害を軽減する構造を有すること。」が書かれていてさらに記述が整合していません。プロペラガードは主に人に対する危害防止の意味合いが大きく物件への接触した際の危害軽減という意味では物件の性質により必ずしも必要でないことも考えられます。
また(論点3)で示したようにドローンレース等では主催者等が各種安全対策を施した上でコース上にゲートやポールなどの「物件」を設置することがあります。これらの「物件」はドローンによって衝突されたりすることも考慮した上で設置していますのでそれらに対する危害防止については特に必要ない場合が多いと考えられ、ここに示された基準を一律に適用する必要がないものと考えられます。

(論点9)無人航空機の飛行に関する 許可・承認申請書の改善

氏名及び住所欄が小さく「印」の記述の位置は住所よりも氏名の記載位置に近づけた方が記入がしやすいと考えます。

(論点10)パブリックコメント募集の再実施について

本「無人航空機の飛行に関する許可・承認の申請・審査要領案」については、現在のドローンやラジコンに関する技術的動向や市場の動向、またその利用の実態について十分踏まえた内容とはなっていないように感じられます。また各項目の記述にムラがあったり、記述内容に整合していない、要求している基準のバランスが悪い箇所があるなど記述を大きく見直す必要があると感じました。またそのための修正に関する対応の幅も広いものが想定され現時点で寄せられたコメントが十分に反映されたものにならない可能性があり、修正案に対して再度パブリックコメントの機会を設けることが適当と考えます。

以上、論点が多すぎて私自身まとめきれてない箇所もあったり記述が十分でない箇所もあるかと思います。皆様からもぜひ改正案等の文書をご覧いただき、それぞれにパブリックコメントとして提出をいただければと思います。
また私からもここの記載した内容をベースとして皆様からのフィードバック等を受けつつ、パブリックコメントとして提出できるよう文章を作成したいと思います。
ぜひコメント欄等にて皆様のお考えなどお聞かせいただけますと幸いです。

【参考】

【ドローン規制】航空法施行規則改正パブリックコメントを提出しましょう(資料編)
http://fpvdrone.jp/2015/10/avi-law-material/